細菌性腟症とは、腟内の環境を整える役割を持つLactobacillus(ラクトバチルス)と呼ばれる善玉菌が減少し、ほかの細菌や真菌などが過剰に増えてしまった状態を指します。
その結果として、多くのケースでGardnerella vaginalis(ガードネレラ菌、またはガードネラ・ガードネルラとも呼ばれる)が増殖します。
この菌が原因で起こる腟炎では、帯下(おりもの)が増加し、特有の不快な臭い(しばしば「魚が腐ったような」と表現されます)が感じられます。
細菌性腟症は、狭義の性感染症(STI)には分類されないものの、性行為によるパートナーからの影響を受けることがあるため注意が必要です。特に、クラミジア感染と併発することが多く、若年層(20歳以下)での発症が多いと報告されています(Yoshimura K et al. 2009)。
また、トリコモナス腟炎を同時に起こすこともあります。
ガードネレラ菌が関与する腟炎では、悪臭を伴う帯下が目立ち、症状が進むと腟からの出血が見られることもあります。
妊娠中に感染すると、流産や早産の引き金となる可能性があるため、妊婦には積極的な治療が求められます。妊娠を希望する女性に対しても、早期治療が勧められます。
治療薬としては「メトロニダゾール」が有効で、ラクトバチルスには影響を与えず、過剰に増殖した悪玉菌のみを排除します。
メトロニダゾールには腟錠タイプと内服薬がありますが、細菌性腟症やガードネラ腟炎では通常、腟錠(6〜10日間使用)が第一選択です。腟錠の使用が難しい場合に限り、内服薬(7日間)を用います。
なお、内服の場合は「アンタビュース様作用」と呼ばれる反応があるため、服用中および服用終了後1週間程度はアルコールの摂取を避ける必要があります。これは、アルコール代謝が阻害されることによって急性アルコール中毒のような症状を起こす可能性があるためです。
パートナーからの菌の影響はあり得ますが、パートナーへの治療を行っても再発の防止には直結しないとされており、現時点ではパートナーへの治療は推奨されていません。
治療が終了した後には、再検査を受け、完全に治癒しているかを確認しておくことが望まれます。
参考文献
性感染症 診断・治療ガイドライン2020、(日本性感染症学会)
産科婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2017、2020(日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会)
性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016(日本性感染症学会)